「ペット・サウンズ」は名盤ではない
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アメリカのロックバンド「ビーチ・ボーイズ」のファンだ。高校時代から愛聴している。
ただ、どうも僕の評価は一般的なものと違う。評論家もミュージシャンもファンも「ペット・サウンズ」(1966年発表)や「スマイル」(67年発表予定だったが頓挫)を頂点と考えているようだ。雑誌でも映像でも、そのあたりに焦点が当てられる。僕はそうではない。
ビーチ・ボーイズは62年にメジャーデビューした。当初はサーフィンや車の歌を歌っていた。基本はロックンロール。多種多様な楽器が「これでもか」と詰め込まれたサウンドも特徴的だったが、とにかくキャッチーだった。親しみやすい音のくり返しだった。
僕は高校生の時に「サーフィン・U.S.A.」(63年)や「アイ・ゲット・アラウンド」(64年)を耳にして、もっと聴きたいと思った。そこで調べてみると、どうやら彼らの最高傑作は「ペット・サウンズ」(66年)というアルバムのようだ。それで聴いてみた。
何だこれは。乗れないし、心も打たれない。何曲かはいいものの、基本的に退屈。サウンドは凝っているが、そもそも曲が良くない。元が悪ければ、どれだけ装飾を施してもどうにもならない。
それでビーチ・ボーイズから離れてしまった。数年後にベスト盤を聴いてファンになるのだが、「ペット・サウンズ」を聴いたばかりに数年遅れてしまった。
別にこのアルバムが好きな人がいてもいい。問題はそういう人が多すぎることだ。「ビーチ・ボーイズ=ペット・サウンズ」というレベルになっている。
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「ペット・サウンズ」やその次の「スマイル」(66年~67年)が世間では頂点とされているようだ。でも僕は「迷走」だと思っている。68年の「フレンズ」を聴いた時にはホッとした。変に凝ったサウンドから、シンプルなサウンドに回帰していたからだ。
「ペット・サウンズ」「スマイル」以前のビーチ・ボーイズは素晴らしい。これらを経たビーチ・ボーイズも良い(つまり66年と67年だけが良くない)。
「フレンズ」の後の「20/20」(69年)も粒ぞろい。「サンフラワー」(70年)などは、これを最高傑作とする人がいてもおかしくない。80年の「キーピン・ザ・サマー・アライヴ」は60年代の黄金期に肩を並べる名盤だと思っている。
70年代以降はアルバム単位では弱いが、名曲は多い。「ザ・トレイダー」「カリフォルニア・サーガ/カリフォルニア」「レディ・リンダ」等々。もしこれらの曲を知らないのなら「ビーチ・ボーイズの最高傑作は○○」「ビーチ・ボーイズは『スマイル』で終わった」などと口にする資格はない。
くりかえしになるが「ペット・サウンズ」「スマイル」を否定しているわけではない。過大評価されているとは思うが、この記事はそれを唱えるために書いているわけではない。これらを頂点として他を軽んじるような聴かれ方に異議があるのだ。
僕は64年の「オール・サマー・ロング」が最高傑作だと思っている。「ガールズ・オン・ザ・ビーチ」(「浜辺の乙女」)など、実に素晴らしい。
これだけ素晴らしいハーモニーがあるのに、どうして彼ら(というかブライアン・ウィルソン)は「ペット・サウンズ」「スマイル」のような奇妙なサウンドに向かっていったのか。いや、それはこの記事のテーマではない。僕はあれらの「迷盤」が最高傑作とされ、前後の「名盤」が軽んじられている現状を嘆いているのだ。
「トゥデイ」(65年)でも「サマー・デイズ」(同)でも、「○○(曲名)には『ペット・サウンズ』の萌芽が見られる」といったことを書く人がいる。それではまるで「ペット・サウンズ」以前が助走期間だったみたいではないか。「トゥデイ」も「サマー・デイズ」も、そのままで素晴らしいのだ。
とにかく昨今は「ペット・サウンズ」「スマイル」ばかりに光を当て過ぎだ。そういった記事や映像が量産され続けている。この記事を読んだあなたは、世間のビーチ・ボーイズ評を鵜呑みにせず、1枚ずつしっかりと聴いていってもらいたい。
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